海原の小舟 別室

クラシック音楽とか

2017.2.22 井上&大阪フィル

2017年2月22日

東京芸術劇場
大阪フィル 創立70周年記念 第50回東京定期演奏会

 

大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮:井上道義

 

ショスタコーヴィチ
交響曲第11番 ト短調 作品103 「1905年」

交響曲第12番 ニ短調 作品112 「1917年」

 

少し間が空いてしまいましたが、演奏会の感想を書こうと思います。大フィルの東京定期、指揮は井上道義さんで、曲はショスタコの11と12!

 

井上さんというと、日本人指揮者の中でもとりわけショスタコーヴィチを熱心に取り上げてきた方ですね。10年ぐらい前でしょうか、日比谷公会堂で行われた交響曲全曲連続演奏会は今でもファンの間で語り草になっているものです。

 

その演奏会、自分は一度も足を運ぶことができず友人から評判を聞くのみ、特にその友人は名古屋フィルとの11&12を聴きに行っていたので、羨ましいなぁという思いが募ったものでした(この連続演奏会は一部録り直し音源もあるものの全集録音としてこの度商品化されました)。

 

というわけで、今回の演奏会はその時の渇きを癒してくれるという意味でも待望の演奏会だったのです。

 

(やや蛇足になりますが、11番と12番は、ショスタコーヴィチのシンフォニーの中でも特に好きな2曲なんです。実演では前者だとインバル&都響やラザレフ&日フィル、後者だとやはりインバルや最近だと井上&N響が印象深いところです。)

 

前置きが長くなりましたが肝腎の演奏、結論から書けば実に満足のゆくものでした。

特に弦楽セクションのテンションの高さは特筆モノ。コンサートマスターの崔文洙氏以下、綺麗に整えただけでは決して表出しえないこの2曲のもつエネルギー感を余すところなく伝えていました。なかなかの快速テンポをとる第11番第2楽章のフガートなど、個人的にはもう少し遅めの方が好みではありますが、実演では大きな効果をもって響いてきましたよ。やはりここはいつ聴いてもシビレます。

 

管楽器も全体としては大健闘でしょう。部分的には瑕瑾もなしとしないのですが、実演においては「名誉の負傷」レベル、許容の範囲内でありましょう。むしろ、木管楽器がやや弱いかなと…(第12番第1楽章主部のFgなど切迫感があまりなく…そうした中でピッコロが孤軍奮闘している印象でした)。

 

最後にやや苦言めいた話になってしまいますが、11番のハイライトのひとつであるラストの鐘について触れておきます。

今回使用されたのは、通常のチューブラーベル。これがトゥッティに埋もれてほとんど聴こえてこなかったのは本当に残念でした(この日は1階席の比較的中央に近い席で聴いていたので、座席の問題ではないと思います)。

 

終結の鐘がいかに重要か、ここで詳述はしませんが、これが楽譜の指示通りにきっちりと聴こえるかどうかは演奏の成否に大きく関わってくるものだと自分自身は考えています。おそらくこの曲をこの日初めて聴いた人は、終結に鐘が鳴っていることを聴覚的には認識しなかったでしょう。

さらに言えば、鐘のために単独の奏者を手配しなかったのも大いに問題だと考えます。コーダに入ってからしばらくしてチューブラーベルの前は無人、その前にシロフォンを叩いている人がいたので、「もしかして掛け持ち? しかしそれでは間に合わないのでは…」と不安を感じながら眺めていると、なんと鐘の1発目は叩きませんでした。間に合わなかったというより、初めからカットするつもりでいたような感じ…現場の判断としてやむなしと考えたのでしょうか。ここはやはりエキストラをもう1人追加して欲しかったところです(人員に関して何か不測の事態があったのかもしれませんが…)。

 

少し細かい話になってしまいましたが、全体として素晴らしい演奏会だったのは間違いないです。またこのコンビの演奏を聴いてみたい、そう思わせる一夜でした。

2017.2.4 ソン&東響 名曲全集

2017年2月4日

ミューザ川崎
東響 名曲全集 第124回

 

東京交響楽団
オルガン:三原麻里
指揮:シーヨン・ソン

 

J.S.バッハ(L.カリエ編)
小フーガ ト短調

ジョンゲン

オルガンと管弦楽のための協奏的交響曲

ムソルグスキー(ラヴェル編)

組曲展覧会の絵

 

 さて、久々にコンサートの感想でも書きます。他にも色々行っているのですが、なかなか書く時間がなく…。

この日は東響の名曲全集に行ってきました。足を運んだ理由はひとえにジョンゲンの協奏的交響曲。オルガンとオーケストラのための華々しい音楽で、録音ではしばしば見かけますが(デ・ワールト盤や、最近ではハーゼルベック盤)、実演では比較的珍しいのではないかなと。

 

そのジョンゲン、やはり実演で聴くと演奏効果抜群! やっぱりこういう曲は生で聴くに限りますね。壮大なオーケストラサウンドを心ゆくまで堪能することができました。

ただ、全曲で約40分は少々冗長な感じがしなくもありません。私自身が作品の構成を捉えきれていないせいもあると思いますが、もう少し、せめてあと10分くらい刈り込まれていればもっと演奏頻度が上がるのでは…などと不遜なことを考えてしまいました。

それと、オルガンの扱いについては、ほぼ曲全体を通して弾きっぱなしなんですね。オルガンのサウンドを楽しむという点では言うことなしなのですが、あまりにもずっと弾いていると途中から有り難みがなくなってくる(笑) これまた贅沢な話ですが、しかし、オルガンとオケのための作品の代表格であるサン=サーンスのシンフォニーにおけるオルガンの出番の少なさは、やはり極めて効果的な活用方法なのだとあらためて感じましたね。

 

そのジョンゲンの前に演奏されたのは、バッハの「小フーガ ト短調」オーケストラ版。今回演奏されたカリエ編は、冒頭クラリネットからの開始。他のヴァージョンは何から始まりましたっけ?

その後、ところどころでテンポをギアチェンジするところがあって、それが楽譜の指示なのか指揮者の解釈なのかは不明。

ともあれ演奏は、東響らしく重厚感よりも色彩感や機能性が前面に出たもの。うん、こんな感じでシェーンベルク編のBWV.552もやって欲しい!

 

後半は「展覧会の絵」。これまたオーケストラサウンドの極致ともいうべき作品ですね。冒頭の佐藤さんTpから見事なものです。その後の各ソロも同様で、ラストのクライマックスの構築も堂に入ったもの。ホールがミューザ川崎だと、ラヴェルが施した工夫が随所で鮮明に聴こえてくるのも良いですね。

ただ、強いて付言するならば、時々指揮者(シーヨン・ソン)の棒が少し先に行くようなところがありましたね。単に先振りをしているだけなのか、オケが反応しきれていないのか、ちょっと判然としませんでしたが、このあたりは客演ゆえの難しさかもしれません。

さらに蛇足ですが、「キエフの大門」の大詰めに出てくる大太鼓は「ずらさない」パターンでした。個人的にはこれで良いと思います(詳細は省きますが、あれは結局誤植だったとかなんとか)。

 

というわけで、全体としては満足度の高い演奏会でした。

2017.1.29 下野&N響

2017年1月29日

NHK交響楽団定期公演プログラムA

 

ヴァイオリン:クリストフ・バラーティ

NHK交響楽団

指揮:下野竜也

 

マルティヌー

リディツェへの追悼

フサ

プラハ1968年のための音楽(管弦楽版)

ブラームス

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77

 

いやぁ、意欲的なプログラムです。前半の曲目を見ただけで誰が指揮しているかわかるかも? 実際、下野さんは2012年に名古屋フィルを指揮してこの2曲を実演にかけています。その時はこれらを後半において、前半はスメタナ交響詩「ブラニーク」とモーツァルトの「プラハ交響曲というものでした。題して「ある東欧の物語」。プログラムとしてはこちらの方が徹底していますね。きっと良い演奏会だったんだろうなぁ。

 

さて、この日の演奏も素晴らしいものでした。作品の内容についての説明は省きますが、特定の「事件」を題材にしたこの2曲、ともに鮮烈な引用を曲中に含みます。マルティヌーベートーヴェンの「第5」、フサはフス教徒の賛歌。後者は、上記スメタナ交響詩の中心テーマでもありますね。これを威厳をもってホール内に鳴り響かせた植松さんのティンパニは特筆ものでした。

 

プラハは3年前に旅行したことがあるので、親しみを持っている街のひとつ。

 

1968年の事件から50年近く。先月亡くなったフサの追悼という意味でも、あらためてこの作品に接する意義は小さくないように思いました。

 

後半はうって変わってブラームスのコンチェルト。下野さんはややマイナーな曲を立派に鳴らす指揮者のイメージが強いですが(自分だけ?)、もちろんそれだけの人ではありません。自分が下野さんの演奏を初めて聴いたのは、もう15年くらい前、都響を振ったシューマンの「ライン」交響曲他の演目で、それはそれは素晴らしい演奏でした。むしろそのような素地があるからこそ、マイナー作品で曲の再評価を迫るような演奏ができるのでしょう(勝手な推測ですが、氏は雰囲気がものを言う作品より構築的に書かれた音楽を好んでいるように感じます)。

 

ソロを弾くのはクリストフ・バラーティ。ハンガリー出身、1979年生まれのヴァイオリニストです。

まず耳を惹かれるのは技術的な安定度の高さ。昨今のソリストではもはや珍しくないことではありますが、とはいえ第1楽章などやはり見事なものでしたね。舞台の奥の方、指揮者が完全に視界に入るところで弾いているのにも好感をもちました。

オケとのバランスも良好で万々歳…というところでしたが、やや気になった点がないわけでもありません。それはフレーズの作り方で、文章で言うところの句読点がとっても曖昧なんですね。これは弓をほとんど弦から離さない弾き方とも関連していると思います。速いヴィブラートも含めて、こうした「粘着質」なヴァイオリンを弾く人は最近では珍しい部類ではないでしょうか。

 

アンコールはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から終楽章。「怒りの日」の引用を含む名高い作品ですね。

 

やはりこの日の演奏会は前半に尽きると思います。終わってみると、前半と後半の演目は逆でも良いかなと思いましたが…。

2017.1.21 飯森&東響 オペラシティシリーズ

2017年1月21日
東京オペラシティシリーズ 第95回

東京交響楽団

東響コーラス

メゾ・ソプラノ:エレーナ・オコリシェヴァ
指揮:飯森範親

リムスキー=コルサコフ

交響組曲シェエラザード」作品35
プロコフィエフ
カンタータアレクサンドル・ネフスキー」作品78

 

2階P列(ポディウム席)のほぼ中央で鑑賞。舞台の上、オルガンの前ですね。サントリーやミューザではこちら側にもそれなりに座席数がありますが、オペラシティでは1列のみ。なんだかちょっと緊張してしまいました(笑)。

 

さて、前半は「シェエラザード」。リムスキーの代表作というばかりでなく、各パートに見せ場満載のショーピースでもあり、今の東響を聴く上ではうってつけの選曲と言えるかもしれません。

そうした中、飯森さんは全体にゆったり目のテンポ設定で(特に前半2楽章)、機能的で洗練されたオケの美質を最大限に引き出しているように感じました。コンマスのニキティン氏のソロは情感をしっかりと表出しつつも表情過多に陥ることなく、全体のキャラクターの中にきっちりと収まっていましたね。木管陣もObの荒木さん、Fgの福士さんはじめ流石の一言。Vaセクションがいつになく明晰に聴こえてきたのは、外側配置で楽器がこちら向きだったせいもあるかもしれません。ともあれ、最初から最後までオケの名技に心置きなく浸ることができました。

なお、曲の途中ですごい破裂音のようなものが聴こえて、舞台上では何も起きていないように見えたので気のせいかなと思ったら、Timpの皮が破けたのだそうです。自分の席からは打楽器が見えなかったのでわかりませんでした。そんなこともあるんですねぇ。

余談ながら、個人的に初めて気付いたのが第1曲の終結。最終和音に入るところでHrの4番だけがロングトーンで伸ばし続けているんですね。

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後半は、プロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」。エイゼンシテインの映画に付された音楽の演奏会用カンタータです。映画自体は以前DVDで観たことがありますが、なかなか見応えがありましたね。録音ではアバド&ロンドン響(DG)が愛聴盤で、演奏の完成度もさることながらアナログ末期の優秀録音がこの作品のプリミティブな性格と見事に合致しているように思います。

プリミティブと書きましたが、これは作品がもともと映画音楽であることが大きいと思います。作られた1938年当時の録音技術で如何にして効果的に音楽を鳴らすか、という問題に対するプロコフィエフの回答がこの作品でもあるわけですね。実際に演奏を聴いていると、結構音楽が盛り上がっているところで意外と管楽器がトゥッティでなかったりする場面があって、そのあたりも関係しているのかしら。

さてその演奏、全編にわたって気合い入りまくり、いつも通りパワフルな東響コーラスも加わって、現在の東響の最良の姿を見る思いでした。勇敢な兵士たちを讃える第6曲のメゾ・ソプラノ独唱(オコリシェヴァ)は同曲の開始とともに舞台上手から登場、こちらも貫禄の歌唱。

 

弦楽器はいつも通り1stVn14型で、首席クラスは降り番が多めだった印象。そのため、Vaの2プルト表に大角さん、Cbのトップサイドに渡邉さんといったように若い方がいつもより前の方で弾かれていました。これもまた東響の良いところかなぁなんて思います。

 

余談ながら、終演後、隣で聴かれていたご婦人に話しかけられました。聞けば、昨年10月に日本センチュリー響が演奏した「アレクサンドル・ネフスキー」に合唱団の一員として参加されたとのこと。今日のこの演奏会のために大阪から聴きに来られたのだそうです。大変感激されていたご様子で、私も心から同意するとともになんだかとっても嬉しい気持ちになりました。

2017.1.13 川瀬&都響 ニューイヤー・コンサート2017

2017年1月13日

第55回 日本赤十字社 献血チャリティ・コンサート

 

オーボエ:荒木奏美

フルート:高木綾子

ハープ:吉野直子

東京都交響楽団

指揮:川瀬賢太郎

 

モーツァルト

 オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314

 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299

ベートーヴェン

 交響曲第7番 イ長調 作品92

 

前半はモーツァルトのコンチェルト2曲。ソリストが豪華ですね。中でも個人的にお目当てだったのが、東響首席である荒木さんのオーボエ。他の在京オケの首席奏者がソリストとして出てくるのは結構珍しいのではないでしょうか。しかし、彼女の力量を知っている人からすれば何ら違和感のある人選ではありません。しかも、彼女が第1位を受賞した「国際オーボエコンクール・軽井沢」でも吹いたモーツァルトを演るとなればなおさら。

実際、演奏も大変に素晴らしいものでした。ちょっと矛盾する物言いかもしれませんが、オーボエの魅力を満面に湛えた伸びのあるサウンドとリードの存在を感じさせない丸くて明晰な音の立ち上がり…愉悦感に満ちた音楽に心置きなく身を委ねることができましたね。

それにしてもまだ大学院に在学中の彼女、今後がますます楽しみです。

 

さて、後半はベートーヴェン交響曲第7番。冒頭の和音で大きく振りかぶる川瀬さんの指揮。良いですね。まるでエースピッチャーがワインドアップからど真ん中にストレートを投げ込むような、そんな清々しさ。そして、この呼吸感こそが川瀬さんの音楽をいきいきとしたものにしているのだと思います。

演奏は、モダンオケによる正攻法なものと言って良いでしょう。第1楽章(提示部繰り返しあり)を過度に速いテンポで煽ることなく、付点のリズムをしっかり表出しているのにも好感がもてました。

 

第1楽章と第2楽章はアタッカで演奏。これは意表をつかれました。どのような意図かはわかりませんが、間を空けずに演奏してみると、あたかもシューマン交響曲第4番のように聴こえてきて、これはちょっとした発見でもありました。

もしかして、全曲アタッカ?とも思ったのですが、以降はしっかり間をとって演奏。もっとも第1楽章でヴィオラのトップの方の弦が切れてしまうアクシデントがあったので、どこまでが予定通りだったのか定かではありませんが…。

 

都響にしては管楽器が部分的に不調だったりもしましたが、全体的には大いに満足できる演奏会でした。

ブログ開設

ブログを開設してみました。

 

以前も少しだけやっていたことがあるのですが、生来の怠け者ゆえ長続きせず。

でも何年か前に始めたツイッターは、ユルく続いているんですね。大したつぶやきの数ではないけど、まあ自分には合ってるみたい。

 

そうしているうちに、時々長文で書いてみたい欲求が出てきたりして、そういう場があってもいいかもと思うようになりました。

またしばらくしたら飽きてやめてしまうかもしれないし、書いてせいぜいが備忘録的なものにしかならないかもしれませんが、とりあえずそのような空間を作っておいた次第。

 

当面はコンサートの感想などを書いたりしようかなと。時々思い出したようにご笑覧下さる方がいらっしゃれば幸いです。