海原の小舟 別室

クラシック音楽とか

2017.1.29 下野&N響

2017年1月29日

NHK交響楽団定期公演プログラムA

 

ヴァイオリン:クリストフ・バラーティ

NHK交響楽団

指揮:下野竜也

 

マルティヌー

リディツェへの追悼

フサ

プラハ1968年のための音楽(管弦楽版)

ブラームス

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77

 

いやぁ、意欲的なプログラムです。前半の曲目を見ただけで誰が指揮しているかわかるかも? 実際、下野さんは2012年に名古屋フィルを指揮してこの2曲を実演にかけています。その時はこれらを後半において、前半はスメタナ交響詩「ブラニーク」とモーツァルトの「プラハ交響曲というものでした。題して「ある東欧の物語」。プログラムとしてはこちらの方が徹底していますね。きっと良い演奏会だったんだろうなぁ。

 

さて、この日の演奏も素晴らしいものでした。作品の内容についての説明は省きますが、特定の「事件」を題材にしたこの2曲、ともに鮮烈な引用を曲中に含みます。マルティヌーベートーヴェンの「第5」、フサはフス教徒の賛歌。後者は、上記スメタナ交響詩の中心テーマでもありますね。これを威厳をもってホール内に鳴り響かせた植松さんのティンパニは特筆ものでした。

 

プラハは3年前に旅行したことがあるので、親しみを持っている街のひとつ。

 

1968年の事件から50年近く。先月亡くなったフサの追悼という意味でも、あらためてこの作品に接する意義は小さくないように思いました。

 

後半はうって変わってブラームスのコンチェルト。下野さんはややマイナーな曲を立派に鳴らす指揮者のイメージが強いですが(自分だけ?)、もちろんそれだけの人ではありません。自分が下野さんの演奏を初めて聴いたのは、もう15年くらい前、都響を振ったシューマンの「ライン」交響曲他の演目で、それはそれは素晴らしい演奏でした。むしろそのような素地があるからこそ、マイナー作品で曲の再評価を迫るような演奏ができるのでしょう(勝手な推測ですが、氏は雰囲気がものを言う作品より構築的に書かれた音楽を好んでいるように感じます)。

 

ソロを弾くのはクリストフ・バラーティ。ハンガリー出身、1979年生まれのヴァイオリニストです。

まず耳を惹かれるのは技術的な安定度の高さ。昨今のソリストではもはや珍しくないことではありますが、とはいえ第1楽章などやはり見事なものでしたね。舞台の奥の方、指揮者が完全に視界に入るところで弾いているのにも好感をもちました。

オケとのバランスも良好で万々歳…というところでしたが、やや気になった点がないわけでもありません。それはフレーズの作り方で、文章で言うところの句読点がとっても曖昧なんですね。これは弓をほとんど弦から離さない弾き方とも関連していると思います。速いヴィブラートも含めて、こうした「粘着質」なヴァイオリンを弾く人は最近では珍しい部類ではないでしょうか。

 

アンコールはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から終楽章。「怒りの日」の引用を含む名高い作品ですね。

 

やはりこの日の演奏会は前半に尽きると思います。終わってみると、前半と後半の演目は逆でも良いかなと思いましたが…。